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終の住処」磯崎健一郎
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    「終の住処」141芥川賞受賞
    著者:磯崎憲一郎(1965千葉県生れ〜)
    発行:新潮社(2009年)

    彼は恐ろしく孤独だったが、しかし考えてみれば孤独など、別にいまに始まったものでもなかった。
    日本の会社員生活でも、いやそのもっと以前から彼は孤独だった。
    子供のころも、思春期も、学生時代もじつはたいていひとりぼっちで、
    自分はそれで平気だったし、好んでそうだったような気もするが、
    もし本当に人生の大半が孤独なのであれば、
    それはもはや孤独などと呼ぶのはふさわしくない、確立された、
    自信に満ちたむしろ前向きで楽観的な生き方なのかもしれなかった。

    だがこのときばかりは少々違ったのだ。・・・・・・・・
    ・・・・・・・・・・まったく不思議なことだったが、
    人生においてはとうてい重要とは思えないようなもの、
    無いなら無いに越したことはないようなものたちによって、
    かろうじて人生そのものが存在しているものだった。
    ・・・・・・・・・・
    ・・・・・・・しかしこのことだけはわかっておくべきだ、
    つまりお前がこの案件をあきらめるのであれば、
    それはお前の一生を失うに等しい、
    これから先の未来だけでなく、過去に起こったすべてを失う、
    それもお前が経験したことだけではなく、
    この世界で起こったいっさいの出来事までも失うに等しいのだ、なぜなら、
    過去においてはただの一日でも、1時間でも、1秒でも、
    無駄に捨て去られた時間などは存在しないのだから。
    お前いまこの瞬間を、この1秒をあきらめることによって、
    お前は永遠の時間をあきらめることになるのだ。
    お前ももうすぐ老いて、この世から去る間際になれば実感する日がくるだろうが、気が遠くなるほど長い、
    ひとりの人間の一生といえども、
    いま目の前の一瞬より長いということはないのだ。
    無尽蔵の時間という魅力的な考え方は、
    お前の周りにもいる多くの無能な人間たちが陥っていながら、
    自分では気づいてすらいない巧妙な罠ではあるが、
    しかし与えられた使命として、お前がそれに抗する覚悟があるのならば、
    これから死ぬまでお前は戦い続けなければならない、
    昼も夜も、ただ戦い続けることによってのみ、
    かろうじてお前はその罠から逃れ、敗北を逃れることができる。
    しかしけっして勝利など期待してはならない。
    ()
    | 磯崎健一郎 | 16:55 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |